A:谷口能隆写真展『Passage』<パリ&プラハ>(ギャラリーエッセ)

谷口能隆写真展『Passage』<パリ&プラハ>(ギャラリーエッセ 2011/8/16-21)

札幌駅の北側、北大の正門からもほど近い好立地に「ギャラリーエッセ」さんがあります。本業は不動産屋さんなのでしょうか。隣にはそのオフィスがありますが、随分と贅沢な場所をギャラリーにしたものだと他人事ながら感心します。開口部が大きいことと、壁の屈折が多いために、平面作品の展示にはやや工夫が必要となりますが、広い空間は立体作品やインスタレーションの展示には最適でしょう。これまでも様々な企画の会場として利用されてきましたが、僕が見たのも、立体と平面が入り交じったものが多かったように思います。都心部にあってこの広さは、やはり魅力的です。

そんな前振りとは対照的な、谷口さんの写真展を拝見です。A3サイズほど額装された写真が、壁に整然と掛けられています。いずれもストリートスナップで、豊かな階調が生きた美しいモノクロームの作品です。表題のとおりパリとプラハの街並みなのでしょう。街の歴史と現在の住人の生活が折衝しながら、いびつな時を刻み続ける異国の空間。それを美化するでもなく、皮肉るでもなく、内に潜り込んで内実を暴露するでもなく、若干の好奇を向けつつも淡々とファインダーに収めるような仕事ぶりです。敬意と愛情に溢れてはいますが、いかにも行儀のよい、毒にも薬にもならない写真と言わざるをえません。

決して貶めるつもりではありません。現地で取材する労力等々、大変なものがあるとは想像しますし、継続した仕事には敬意も抱きます。しかし見た後に感じるのは、圧倒的な物足りなさです。谷口さんがなぜパリやプラハを選んだのか、必然性が感じられません。その好奇心に共感もできません。パリやプラハと聞いても、僕があまり異国情緒に期待しないせいでしょうか。

ただこうした王道の写真を見ると、安心感を覚えることは確かですね。枠からはみ出ない方法論がいつの時代でも有効性を失わないのだと証明していただけるのであれば、素直に賞賛したいと思います。