A:JAMANI個展(ギャラリー犬養)

JAMANI個展(ギャラリー犬養 2011/8/7-22)

ススキノから国道三六号線を西に向かい、豊平川を渡って二つ目の信号を左へ。ビルの隙間から、おそらくこの辺りの土地が開拓されたのとほぼ同時に建てられたと思われる、えもいわれぬ雰囲気をまとった建物が姿を現します(入口へといたる小径に辿りつくためには、さらにぐるっと廻る必要があります)。この八月にオープンしたばかりの「ギャラリー犬養」さんです。先月あたりからちらほらと噂を耳にするようになり、方々のブログなどで記事を見るにつれ、とても気になっていました。築一〇〇年の古民家を改装してギャラリーにする、それを聞くだけで心が躍ります。

いざ建物の前に立ってみると、なるほど期待を裏切らない外観。古びてはいるけれど健全で、確かに生きた建物であることがわかります。中に入れば、塗り直された白壁が目にまぶしいネオ・クラシックな空間です。柱などの木材が帯びる古色に、いちいち琴線をかき鳴らされます。一階はカフェと、人形(?)や小物の展示スペースのようになっています(何が展示作品で何がこの家にそもそもあったものなのか、判別が難しいです)。二階はギャラリースペース。ちょうどこけらおとしとなる、JAMANIさんの個展が開催されていました。ちなみにカフェに置かれている椅子やテーブルはこのJAMANIさんの作とのこと。古びた木材と細い鉄筋を組み合わせた、ふた癖ぐらいあるデザインです。それほど広くないカフェスペースが狭く感じられないのは、この細い鉄筋の効果でしょう。さすが、場をよくご覧になっていますね。感心しました。

建物の魅力にすっかりやられ気味となりましたが、JAMANIさんの個展もちゃんと拝見してきました。急な階段を登って二階にお邪魔すると、そこはまるで、おもちゃを散らかした子ども部屋のよう。細い鉄筋による造形を基本として、馬などの動物のオブジェや椅子、電灯飾りなどの装飾品が置かれ、また西洋的ないでたちの道化人形なども展示されていました。職人的な意識をお持ちなのでしょうか。いずれの作品も、何かを表現したいという欲求よりも、完成度の高いものを作るのだという意欲の方を強く感じさせます。先鋭的な創造性はないけれど、満ち足りたこの世界を遊び尽くそうという心意気。自己流によって世界を、事物を、再生産しようという意気込みが伝わってくるようです。

ただ申し訳ないのですが、今回ばかりは建物の魅力にあてられて、個々の作品の印象があまり残りませんでした。いや、この建物のなかに子ども部屋のような空間を作ってみせたこと自体がJAMANIさんの作品であったと理解するならば、大変印象深い体験をしたと言えます。子ども部屋のようにしつらえられた空間を媒体として、僕の幼少期の記憶と、全く無関係のはずの犬養邸に堆積する記憶がリンクするような錯覚を、確かに覚えました。これは先に苫小牧で見た「記憶と循環」と同種の仕掛けですが、ほぼ普遍的な小学校という場のみならず、個人の邸宅においても、ノスタルジーを刺激することで、人と場との記憶の響き合いが生じるのだということを発見できたのは、大きな収穫だったと言えます。

そしてなにより、素晴らしいギャラリーがまたひとつ増えたことを喜ばしく思います。集客は今のところ・・・のご様子ですが、まだまだこれから。ぜひ頑張っていただきたいですね。