A:加藤委展 NORTH SEA ROAD 「サンカクノココロ」 (ギャラリー創)

加藤委展 NORTH SEA ROAD 「サンカクノココロ」(ギャラリー創 2011/7/9-18)

雨の気配を感じつつ、「ギャラリー創」さんにお邪魔しました。設立からまだ4年なのですね。しかしながら、現代アートの制作に励む作家の足がかりとして、あるいは道外作家の紹介の場として、すでに札幌のアートシーンを語る際には欠くことのできない存在となった感があります。きちんとコーディネーターの方がいらっしゃって、貸し館のみならず企画展も開催するところがよいですね。責任感や使命感などあまり考えず、気負わず、ご自身の主観と感性に従って、これからも話題を提供し続けていただきたいものです。賞賛も批判も受けることがあるかと思いますが、それらに研磨されて強靱に育ってくれることを願います。

さて、加藤委(かとうつぶさ)さんの作品を拝見です。青白磁の作家として、このところ注目されているとのこと(相変わらず不勉強ではじめて知りました)。なるほど、白地の磁器に青磁釉をかけるというスタイルを基本として、椀、皿、コップ、花器といった器のものから、器の形を崩してみせた抽象的な造形のものまで、多様な作品が並べられています。造形的には、斬新さはあるものの、やや場当たり的な印象を受けもします。一度形づくったものに一手間加えるといったふうな方法でしょうか。刃物で土を削ぎ落とすことで生じる滑らかな面とそれらが交わる鋭利な角。ねじくれて歪んだフォルム。独特で、勢いがあり、確かに面白いのですが、何か深い意味を考えさせてくれるまでの力は、残念ながら僕には感じられませんでした。ただ、土塊から磁器が萌芽しているような作品については、土が磁器としての生命を得る様子を描写しているようで、興味深いものがありました。

なにより強く惹かれたのは釉薬の用い方です。おそらくは一般的な青磁器に使用されている青磁釉を使われているのだと思われますが、加藤さんの作品においては、釉薬は磁器の色彩や表情に変化を生むための添加物としてではなく、造形的な部分を支える一素材として用いられているように思われるのです。白地の上に大胆に青磁釉をかけることで「むら」や「たまり」ができ、恣意的にいびつに形づくられたフォルムを、偶然的なフォルムが包み込みます。こうした白地と青磁釉の取り合わせによって、恣意と偶然の二元論的世界観が示されている、と言ったら言い過ぎでしょうか。しかし少なくとも、磁器における釉薬という存在が、それ単体でも意味を持ち得るのだということを示していることは確かです。考えてみれば、そもそも磁器は、土台となる粘土質物と釉薬との取り合わせによって構成されているものです。普段は両者が寄り添うがあまり、全体としてひとつのものと見なしがちなのですが、加藤さんはそれらの関係を分断して、それぞれに個別に意味づけをして提示してみせたと言えます。これには目から鱗といったところです。

展示されていた作品のなかにはガラスの花器や、磁器とガラスを組み合わせたものもありましたが、釉薬の延長としてガラスを素材に用いるという方向性は、単純ですが理にかなっています。その作品は大胆な造形で迫力があり、土→陶→ガラスといった、生命の成長か進化過程にも似た図式が示され、フォルム以上に雄弁です。しかしながら、それを示すことでいったい何を伝えようとしているのかというところに思考を巡らせようとすると、残念ながら、作品から得られるヒントはほとんどありませんでした。斬新な方法を手に入れることのできた興奮をたよりに、ひとまず邁進しているといった感は否めません。いくつか植物を活けている作品も見受けられましたが、会場の雰囲気作りを目的としているだけのようで、いかにも中途半端で作品に寄与していません。迂闊にやるべきことではないですね。

不満をもちつつも、感心するところも多く、全体としては十分に楽しむことのできた個展でした。あと一歩、訴えかけてくるものがあればと惜しく思います。具体的に指摘できない自分の無力さを感じながら、今回はこのへんで。