A:波のゆくさき 神粼剣抄 個展 2011(CAI02)

波のゆくさき 神粼剣抄 個展 2011(CAI02 raum1 2011/6/28-7/13)

ようやく夏らしい暑さです。冷たいものを美味しくいただけることを思えば、悪くない季節なのですが、あいにく体調の方が最悪。うっかり風邪をひいて壊したお腹が、あまり食べ物を受け付けてくれません。このまま夏バテ一直線は困ります。快復したらウナギでも食べに行くとしましょう。ラーメンは当分おあずけです。

さて、今回は「CAI02」さんへお邪魔しました。外の、夏の気配もなんのその。暗くて湿っぽい雰囲気は相変わらずです。この季節や時間の変化から隔絶された非日常性は、美術館的と言ってもよいかもしれません。どんな経験ができるのだろうかと、毎度期待感を抱かせます。ただしあくまでもギャラリーですので、それなりの審美眼でもって企画、出品作家の選考をされているのだとは思いますが、展覧会の品質保証という点においては、美術館ほど重い責任を負っているわけではないことは確かでしょう。「CAI02」さんに限ったことではありませんが、経験から言えばつまらないものも随分と多いですし、お金さえ出せば展覧会を開けるギャラリーもたくさんあります。もちろんすべてを否定するつもりはありません。そういったギャラリーのあり方が、芸術文化のある一面を支えているということは間違いないのです。ただ、蓋を開けてみれば、ギャラリー、作家、鑑賞者、すべてが身内の、馴れ合いの果ての展覧会というのは、やはりやめていただきたいとは思います。誰のためにもなりませんし、何よりも井戸の中で飼い殺される作家が不憫です。

神粼さんはどうなのでしょうかね。「波のゆくさき」という詩的なタイトルに惹かれて訪れてはみたものの、これを誰に見せたいのかまったく不明瞭で困惑しました。少なくとも、外に向けて何かを訴えかけようとしているとは思えません。全体的に雑なのも気にかかります。何かに不満やいらだちを覚えているのか、それらをうまく発散できずにもがいているのか。よくわかりませんが、方向性を間違っているように思えます。知性による昇華がなければ、行き場のない感情が表現に結びつくことはないでしょう。てらいも鼻につきます。

作品は平面のものと立体のものがありました。平面のものは、アクリル絵具、墨画、金屏風にペンキ、さらにはアメジスト、粘土、米粒など多様な素材を使っています。全体として墨のような黒を主調とした抽象的な画面で、荒い筆致でほとばしる線や渦を描き、自然が描き出す連続する造形の一部を切り出したような印象です。立体のものは鉄の角材を組み合わせたオブジェで、ところどころ分断された格子が屹立しているといった様子です。これらを取り合わせれば、連続と断絶といったテーマ性もかすかに見えてきそうです。しかしいかんせん雑なので、どうしても正面から向き合う気勢をそがれてしまいます。勿体ないと思うべきなのか、僕の性に合わないと切り捨てるべきなのか、迷うところですね。

会場に鳴り響いていた「翼をください」がさらに気持ちを萎えさせました。どうやら他の方(名前は失念)のビデオインスタレーションを併置していたようです。五つの小型モニターにタイミングをずらして同じ映像を流すというものでした。神粼さんの作品と関連づけての設置なのか、そうではないのか、判断にも理解にも苦しみます。おかげで作品の印象は、ほとんどかき消されてしまいました。

翼をください」はよい歌ですね。小学生の頃を思い出します。鼻歌交じりに歌いながら帰りました。