A:中井泉展ー白い世界IIー(TO OV cafe)

中井泉展ー白い世界IIー(TO OV cafe 2011/6/14-26)

ススキノの南西の奥、繁華街の喧噪から一歩遠ざかったあたりにある、「TO OV cafe」(ト・オンカフェ)さんにお邪魔しました。素敵なカフェです。木製の重厚なドアを開けると、まぎれもないカフェスペース。けれど、どこに居場所を求めるべきか一瞬戸惑います。境界が曖昧なキッチンとホール、控えめな座席数、低いカウンターなどによって、決して広くはない店内はがらんとした印象となっています。迷い込んだという形容がぴったりくる、そんな空間です。入口から真っ直ぐ入れば、そこがギャラリースペースです。カウンターが境界をまたぐように置かれていて、カフェとの区別はやはり曖昧になっています。

さて、中井泉さんの作品を拝見です。が、いきなり驚かされます。フライヤーを片手にお邪魔したのですが、そのフライヤーに使われている作品が見当たりません(あとでよく見ると、カフェとギャラリーの境界あたりの柱に、こっそりと掛けられていました)。あったのはベニヤ板を用いた大きな円形の作品と、小振りな屏風のような仕立ての作品でした。

フライヤーの作品もそうですが、今回の展示作には、和紙を用いているという点に特徴がありました。円形のものも小屏風のようなものも、ベニヤ板で和紙を挟み込み、ぼさぼさに繊維を毛羽立てた端を露出させて、線的な板の端に独特の表情を与えています。板自体には下地に金彩を施し、その上に白で彩色(円形のものはさらに灰色でも)しています。金地を活かすことを意識しているのでしょう。塗り込めはせず、たらし込みのような技法で濃淡をつけたり、一筆書きの書のような筆致で金とのバランスに配慮しながら、絵の具を重ねています。金地のための装飾のようにも見えますね。金に何か特別な思いを抱かれているのかもしれません。

他方で、上に重ねられている白が脇役かと言えばそういうわけではありません。具体的なモチーフを連想させない、筆が走るままに描かれたような模様ですが、十分な存在感があります。ただしそこに、作者が込めた意図や意味、表現したかった何かがあったのだとしたら、残念ながらそれを読み取ることはできませんでした。それよりも、ものとしての完成度を高めることや、作品としての体裁を整えることについてはらわれた配慮の方が伝わってきます。制作することを心から楽しんでいらっしゃるような、無邪気さも感じられます。

このあたりのバランスは難しいですね。作品からは、作者が何か切実な思いを抱いているような気配を感じはするのです。ですがそれが何かはわからない。作者の思いを探ろうと作品の細部に目をやると、今度は配慮や無邪気さが目立ってくる。このブログでは、作品のみを出発点として思索を巡らせることを試みているのですが、こうした作品を前にすると、たちまち迷路に迷い込んでしまいます。これは僕の不明さゆえでしょう。もっと確固とした視線が必要なのかもしれません。作品がよいだけに悔しいです。特に円形の作品は、雪や氷に育まれたバナキュラーな自然観に支えられているようでありながら、念の入った隠喩の構造と物質への執着によって、そうした読み方を退けるそぶりさえ見せます。発散したいのか隠蔽したいのか、作者も自覚していない葛藤が、根底にあるような気がします。見極めてみたいものです。

ちなみにカフェのコーヒーは、舌の上にほのかな酸味が残る、なかなか僕好みの味でした。またゆっくりとお邪魔したいと思います。やはり作家論に向かわざるをえないのかと、軽い挫折感を味わいつつ。