A:エントランスアートvol89 橘井裕 エキシビション(STV北2条ビル)

エントランスアートvol89 橘井裕 エキシビションSTV北2条ビル 2011/5/30-6/19)

よさこいソーラン祭りが開幕となり、大通公園周辺がにわかににぎやかになっています。活気があるのはよいことです。個人的には、この時期特有のライラックの甘い香りと、焼きトウモロコシの芳ばしい香りをかぎながら、大通り公園をのんびりと歩くのが好きなので、もう少し静かな方がありがたいのですけれど。

所用があり歩いて移動している途中、STV北2条ビルの前を通りかかったので、ちょっと寄り道です。ちょうど橘井裕(きついゆう)さんの作品が展示されていました。余談ですが、この「エントランスアート」という企画、もう89回目にもなるのですね。調べてみると2003年からはじまり、以後毎年、ベテランから若手までの12組のアーティストを、絶妙なバランス感覚で紹介し続けています。継続性といい、素晴らしいですね。あの場所にただ行くだけで、なにか面白いものが見られる。そんな場所が街の片隅にあることを、我々は幸福に思うべきです。

さて、橘井さんの作品についてです。これまでの作風にのっとった鉄の造形です。錆びた鉄板や鉄筋を組み合わせて形づくられた楽器を弾く人物や、人力車のようなものに乗った侍(?)、カラス、昆虫、ハートの型などの多彩なモティーフは、シュールレアリスムの気分を満々に湛えながら、どこかメルヘンチック。童話のような世界観と暖かいヒューモアをもつ作家の心持ちが、ひしひしと伝わってくるようです。ただ作家が、本展の表題に掲げるように、「3.11」以後の決意表明としてこれらの作品を提示しているとしたら話は別です。それまではただ美しく見えていた錆も、被災地への哀切や、頽廃的状況へのアイロニーにからめ取られ、とたんに陳腐で見苦しいものに思えてきます。作家は「2011年3月11日・午後2時46分から思考停止・・・.ーそれでもワシは鉄の道を行くー」と書いています。そうした決意表明はたいへん結構です。ですがその結果がこれらの作品ですか?なんだかちぐはぐです。言葉と作品の温度差がありすぎます。残念ながら、僕もここで「思考停止」せざるをえません。

やはり作家の言葉を迂闊に聞くべきではないかもしれません。印象批評のような文章をつらつらと綴っているこのブログですが、まずは目の前の作品から感じられるまさに印象を、素直に表明することを心がけようと思い、このような体裁をとっています。論に深みを持たせるためには、作家の来歴や作家の言葉などを参照し、それへ同意するなり反発するなりしながら作品を再検討することが必要なことはわかっています。いずれはそうして僕なりの批評を構築することを目標にしてはいるのですが、今はまだ無理です。作家の言葉に流されすぎます。もうしばらくは自分の印象を大事にし、解釈に自信と思想的背景を得て、作家の言葉と対決する準備ができた後、次のステップに進みたいと思います。先は長そうではありますが・・・