A:Plus1 Condensation(コンチネンタルギャラリー)

Plus1 Condensation(コンチネンタルギャラリー 2011/7/21-8/7)

最近にわかに仕事が忙しくなり、珍しく前回の記事から間が空いてしまいました。見逃した企画も多く残念ですが、それもまた巡り合わせ。躍起になってすべてを見ようとするよりも、たまたま出会えたものとの繋がりを大切にするぐらいの方が僕の性には合っています。ブログは少々ペースダウンすることになるかもしれませんが、細々と続けてゆきますので、どうぞよろしくお願いします。

さて、とても久しぶりに「コンチネンタルギャラリー」さんにお邪魔しました。前回行ったのがいつだったか、思い出せないくらいに久しぶりです。新進気鋭の作家達を後押しする良質な企画を組む、札幌では有数のギャラリーと言っていいでしょう。ビルの入口から地下のギャラリーに至るまでに、やや距離を感じさせることが玉にきず。テナントビルの中にギャラリーがあることは珍しくはありませんが、なんとなく足を踏み入れるのがためらわれます。

ギャラリースペースは、よくこれだけの面積を確保したものだと感心するほど十分な広さ。扉をくぐり、右手の障壁をぐるりと迂回すると、立体作品の展示も余裕でこなす贅沢な空間がひらけます。そのせいでしょうか、こちらで拝見する作品には、立体や半立体のものが多いような気がします。偶然とは思うのですが、今回拝見した作品も、立体のものや、平面から立体への展開を目指したようなものが大半でした。以下、作品の印象を書いてゆきます。作品名はほとんど失念してしまいましたが・・・

ダム・ダン・ライさん:多数のアーモンド型のものが密集したイメージを基本として、それを平面と立体で表しています。壁面には正方形のキャンバスの平面作品を掛け、床には細長い鏡を置き、その上に木の立体作品を設置していました。鏡の上に立体を置くというのが面白いですね。平面と立体を並べて形態を対照的に示すのと同時に、立体を鏡に映すことで平面へと変換して形態の差異をぼやけさせもする仕掛けです。アーモンド型の連鎖に誘われるがごとく、平面から立体へ、立体から平面へと、思考が作品の中をぐるぐると巡ります。鏡の上に立体を直に置くことがよかったのかどうかという点だけ、要検討です。

川上りえさん:いつもどおりの鉄の造形です。壁と接する部分は「!」のような形が鉄板で立体的に、その下端からは直角にのびる「!」の影の輪郭が細い棒鋼を組み合わせて形づくられています。立体の作家のなかには、照明を利用して壁面に落ちる影を作品に取り入れることをする方がよくいらっしゃいますが、川上さんの作品は影を壁から引きはがして、立体的に造形してしまおうという試みです。なかなか大胆で斬新な方法だと感心しました。ただ立体的に造形してしまうことで、影の雄弁さが失われるのは残念です。影は捉えようがないものであるがゆえに魅力的なのだということが、よくわかりました。

坂東宏哉さん:壁面に大判の平面と、床に長短さまざまな土筆状の突起物を併置した作品です。いずれも美しい青系の絵具で彩色され、濃淡や彩度の差が複雑な表情を生み出しています。ですが、とても難解な作品です。たしか「再生」という題名だったかと思いますが、何が再生しているのか、あるいは何を再生しようとしているのか、意図が伝わってきません。お手上げです。

藤本和彦さん:黄色いワックスを固めてつくった直方体が多数、全体として見れば菱形を形づくるように壁に貼られています。ちょうど壁面の角をまたぐように設置されているのは、そこに三角形の空間を出現させようという意図でしょうか。しかし、こちらも難解ですね。題名は「卯の刻」でした(難解な作品ほど題名に助けを求めてしまいますから、皮肉にもちゃんと覚えているものです)。「卯の刻」は午前六時ですから、ひょっとしたら朝日のイメージなのでしょうか。そう考えてみれば、大きな菱形は揺れる海面に写る太陽のように見えなくもありません。しかしまったく自信がないです。

齋藤周さん:以前「テンポラリースペース」で拝見したものの小品版です。特に言及することはありません。ただ画面が小さいと共感が弱まりますね。引き込まれるような感覚がなくなります。どの大きさで作るかといったことも、やはり制作上の大きな問題なのだということを、しみじみと思います。

千代明さん:円形の棒鋼を組み合わせて作られた球形の外郭のなかに、白い輝きを放つ光源を核として、虹色に染められた紐が放射状にひろがります。素直に面白いと言える作品です。虹色の紐が光線の明喩であるだろうということはわかりますが、それが結びつけられている円形をどう理解すればよいのか、悩ましいところです。

谷口明志さん:壁面に設置された複数の黒い板を組み合わせた平面の上を、白い筆跡のシンプルなドローイングが走ります。平面は床と接する部分で直角に折れ曲がり、そのまま床面へと張り出しいるのですが、ドローイングは床に近い部分から白い針金に接続されることで空間を飛躍して、床面へと至り、再び白い筆跡に接続されます。もっとも平面的であるはずのものを平面から引きはがしてみせるという方法は、先に見た川上さんの作品とも共通するものがあります。ただこちらの方がより恣意的でしょうか。ちょっといやらしさを感じもします。

「Plus1」展、今回のテーマは「Condensation(凝縮)」ということで、作品同士の高密度の響き合いによって空間へとアプローチするといったようなことが、これまた難解な言い回しによって宣言されています。空間へのアプローチという点に関しては、個々の作品において様々な形での試みを見て取ることができ、概ね楽しませていただきました。